うにだいすき

日本有数の糞ブログ

ふと暇が出来てマンガ喫茶に立ち寄ったのだが、読もうと思っていた「家庭教師ヒットマンREBORN!」が置いてなかったので、

月光条例 1 (少年サンデーコミックス)

月光条例 1 (少年サンデーコミックス)

岳 (1) (ビッグコミックス)

岳 (1) (ビッグコミックス)

孤高の人 1 (ヤングジャンプコミックス)

孤高の人 1 (ヤングジャンプコミックス)

を読んだので感想を書きます。

月光条例
6巻まで。
何十年かに一度の青い月の光を浴びるとおとぎばなしのキャラクターの頭がおかしくなって人間世界へやってきて大暴れしたり、お話そのものがなくなってしまったりするので、それは困ると言うことで正気を保っているキャラの一人である鉢かつぎ姫が主人公の月光と狂ってしまったおとぎばなしを修正する(バトルで)という話。
なんつうかなあ、面白いんだよ。面白いんだけど、なんかガツンと来ない。藤田和日郎の漫画は「うしお」「からくり」しか読んでないけど、けっこうご都合主義的な展開が多いんだが、勢いでカバーして「ご都合だ!しかし良い!」とこちらに思わせるパワーがある。でも「月光」には前2作のようなハッタリズムとか読み手をぶん殴るようなパワーが足りないんだよ。多分、主人公を含めた全体的なキャラの弱さだったりもするんだろうけど、もっと言えば説得力がないんだ。
まず主人公自身がそうで、今のところ「喧嘩が強い」「精神も強い」以外には「何故強いか」の説明はない。時速300キロで走れるとかさ、おかしいだろ。そのあたりは「実は!」って説明があったりするのかもしれんのだけど(生い立ちと絡めて)そーゆー細かいところを「いいんだよこまけえことは」で流せればそれでいいんだけど、流せるだけのハッタリがないんだよなあ。鉢かつぎ姫も万能すぎるし、キャラクターとしてのアクがないから、月光とコンビにならないし。「うしおととら」なら人間で優しい潮と妖怪で非情なとら、という対比があって、両者の反発から生まれるドラマや、とらが潮に感化されていくっていう展開があったわけじゃん。鉢かつぎは「おとぎばなし」の住人であるにも関わらず現代社会に通じすぎてるし(鉢を被っている、以外に非常識な面がないからコメディも成立しない)性格的にも月光と対比するような面もないから、バディとして面白みがない。月光がもっと嫌々戦っているなら、鉢かつぎの情熱や心の強さに感化されていくという展開もあるだろうけど、月光も「口だけへそ曲がり」というキャラだからそんなこともないし。おとぎばなしキャラのもたらした被害は元に戻るというのも…。やっぱ「ちょっと都合よすぎやしないか」になっちゃうんだよなー。
とはいっても藤田氏がもともと持っている「読み手の感情を揺さぶる」センスは流石で、うりこひめとか超怖かったし、赤ずきんの話はボロボロ泣いてしまった。でも読んだ後で「アレ?これ赤ずきんじゃなくてもよくね?」って思っちゃうんだよなあ……。多分そういうことに尽きると思うんだけど。「この話はこうじゃなくちゃいけない!」「このキャラじゃなくちゃいけない!」「このセリフじゃなくちゃいけない!」というまさに「説得力」が薄いんだ。
それはとは全く関係ないけど、ヒロインは相変わらずかわいい。図書委員ちゃんとか。そしてミニスカートから伸びる足のエロさはすごい。足フェチか。
あと、これは言ってみれば氏の永遠のテーマでもあるのも知れんけど、おとぎばなしのストーリー変えちゃうのはどうよ。それやっちゃいけない気がするんだけど…。


10巻まで。
若くて世界の山を踏破してきた主人公、三歩。日本アルプスの山に住まい、山で生きる彼の仕事はボランティアとしての山岳救助である。という話。
神々の山嶺」を読んでから山岳漫画に興味がわき、これが面白い、という話は聞いていた。確かに面白い。救助、というテーマではあるが、必ずしも救助そのものがメインではなくって、いやメインではあるんだけど、なんつったらいいのかなあ、「山」がメインなんだよ。救助しない話も多いし。だから救助そのものが何回にもわたってドラマチックに描かれる、というわけではなく、基本一話完結で淡々と進む。その中で登場人物たちは「生」「死」「生き方そのもの」を「山」を通して向き合っていく。これを一話完結でキッチリ落とし込んでるというのはかなりすごいと思う。
これがスピード線バリバリで主人公が大汗かきながら「絶対死なせねえ!!」とか叫んで、基本的に救助は成功する、たまに死んで主人公落ち込む、みたいな漫画だったら「ケッ!!」なんだが、そうではない。けっこう救助者は容赦なく死ぬし、主人公はその死を受け止めながら「よく頑張った」と言う。その言葉や超人的な主人公に嫌味がない。なんでかっつたら「山」の漫画で、作者が山超好きだからなんだよ。己を過信したり、パートナーを死なせてしまったり、山で死んだ肉親を探しに来たり、様々な理由で事故に遭った人々に対し、主人公三歩は決して彼を叱責したり、過ちを責めたりしない。「誰だってそうだよ」誰だって失敗する。過ちは誰にもある。辛いこと、苦しい事はたくさんある、けれど、そのことで山を嫌いにならないで欲しい。そして彼は「また山においでよ」という。
一つの手を「楽しいこと」もうひとつを「苦しいこと」その手を合わせ「これが山」というくだりがある。これが素晴らしいのは、「生きる」ということもすなわち同じであるからだ。楽しいこと、辛いこと、その二つがあって生きるということがある。作者自身の考えはわからないが、「山」も「生きること」も同じなのだ。その中で起きることに何の違いがあるのか。だからこの漫画には感動がある。山が大嫌いなおれも感動するのだ。泣きながら読んだ。何故泣くか? 人が死ぬから? そうではない、そこに「人生」があるからだよ! だから泣けるんだよ!
なんといっても三歩さんのキャラクターがすばらしいよな。どこまでも大きく、どこまでも優しい。そして山と人を愛している。かっこいい、というのともまた違う。「素敵」な主人公だ。

孤高の人
7巻まで。
過去のトラウマから人との繋がりを拒絶して生きる少年、森文太郎。偶然からロッククライミングと出会い、すば抜けた才能を開花させていく。しかし、極端に不器用な彼の生き方は誤解され、その行動さえ不和と破局をもたらし、彼を孤立させていくというお話。
山岳漫画の中で最近話題?なのか? 同名の新田二郎の小説はあくまで「原案」で話自体は全く関係ないらしい。
坂本眞一って「モータルコマンドーガイ」の人か! 確かにすごい筋肉。絵が上手い。キャラクターも端正、だが、その「ヤングなんとかっぽい」絵柄やストーリー展開が、山岳漫画にはマッチしてない気がするなあ。
ストーリーも、山に登ることそれ自体よりも森文太郎の受難劇が中心で、これでもかというくらい嫌な目に遭う森くん。悲惨すぎる。「おまえのせいじゃん」って所も多いんだけど、それを差し引いても悲惨。でも突き放す気にはなれないのはおれも似たようなところがあるからで、感情移入は出来るんだ。出来るんだけど、すればするほど辛い。何をやってもドツボにはまる主人公。日常生活は何をやっても上手くいかない。山に入った時だけ、全てのものから開放され、自由になれる。しかし、山の中でさえ人のわずらわしさから逃れられない。ああ、悲惨だ。
悲惨は置いといて、なんというかなあ、一言で言えば「孤高じゃなくてただの孤独じゃね?」って感じ。なんてえかなあ、過去のせいで人と交われない、心を開きかければ不幸が起こり、また心を閉ざす。この漫画、山じゃなくていいんだ。山登らなくても成立する。「山」という危険な存在にたった一人で立ち向かおうとする主人公だから「孤高」なんでしょ? よくわかんないけど原作ってそうなんじゃないの。「神々の山嶺」の羽生丈二も単独だけど、羽生の孤独、孤高ともなんか違うんだよな。一人で山を登るのはとても大変で、とても危険で、だからこそ己を厳しく律さなければならないし、あらゆることにシビアになっていく、その結果孤立を深める。森くんは口下手とかで失敗しちゃってるだけじゃん。あえて「一人」を選ぼうとする、選んでいく意志が感じられないんだよ。「ほんとはみんなといたいんだけど出来ない」それって、ただのかわいそうな奴じゃん。
たぶん、自分の意思をうまく人に伝えられなくって、その結果一人になってしまうような現代の世相とかと照らし合わせての孤独な主人公なんかなとも思うんだけど、それだったらもっと「一人だって大丈夫」だって事を書いていくほうがいいんじゃないかなー。人は一人では生きられないとは言うのもご立派だけどさ、あえて「ひとり」を選ぶことだって悪いことではないだろ。
「岳」のほうで、一人で山登ってるオバさんが出てきて、「あえて一人を選んでる人だっているんだよ。一人が好きなんだよ」っていう話があるんだけど、そういう方に行って欲しい。なんか、このままだとただ森くんが誰とも上手くやれなくて、結果一人になってしまうただの寂しい人みたいになっちゃいそう。
まだまだ進行中の作品であるし、それこそこれからどう「孤高」となっていくのか、どういう描かれ方をされるのか興味はあるのでもう10冊ほど溜まったら読みに行きたいが、今のところ買う気にはなれないな。おれの嫌いな、いかにも青年誌的な必然性のないエロ(それも嫌悪感をもたらすタイプの。そういう描き方してるんだけど)とか、嫌なキャラも多いし。
あと、山に入ってるシーンも絵は上手いし描き込みも凄いんだけど、なんかガツンと来ねーんだよ。それこそ「山に入ることで解放され、純化されていく」その快楽こそ主人公のもっとも強い動機なのに、そう思えてこないんだよ。共感できないんだ。「岳」「神々の山嶺」は山嫌いのおれでも納得できるのに。漫画は難しい、ということかねえ。